紅蓮の竜と独眼鬼の続き小説!一応完結してます!

紅蓮の竜と独眼鬼3

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背中に感じるのは、ふかふかの敷布団の感触。
被せられた打ち掛けからはみ出した手にザラザラと触れるものは、おそらく畳だろう。
意識の片隅で誰かと誰かの会話を掬う。

「…無理させちまった」
「えぇそのようで」
「…仕方ねぇだろ。俺はどうにもコイツ相手だと…見境なくなっちまうみてぇだ。」
「…」
「まぁ…ようは、中に出さなきゃ良いってことだろ?」
「…ッ!…政宗様ッ!そういう問題ではございませんッ!」

ピシャーンッと、まるで鋭い雷の音を聞いたような気がした。

「………まったく…貴方という御方は…」
とんでもない開き直りを見せる主に、心底呆れ声の従者。

「…う」
「幸村!」
わずかに感じる下腹部の痛みに違和感を覚え小さく声を漏らすと、すぐに己を呼ぶ声が返ってくる。

「…ここは…」
「座敷牢だ。アンタ熱があるみてェだから、地下牢だと障りあるだろうと思って移した」
誰のせいだと…という従者のぼやきも耳に入らない様子で、政宗は嬉々として幸村に笑い掛ける。
幸村は横になったまま、頭を少し動かし、ぐるりと辺りを見回す。

会話の主二人と幸村の間は、地下牢と同じく木造りの格子で区切られている。
真新しい畳の上に、上等な布団と打ち掛け、室の中には囲炉裏も敷かれ、
火は消えているが、空気がまだ温かいことから、つい今しがたまで火が焼べられていたと察せられる。

窓は無く、幸村には今のおよその時刻が掴めなかった。
日々与えられる竜の精により、最近の幸村は飢え知らずだったため、
腹の空き具合ではわからぬな…などとよぎったが、
と同時に、先ほど(どれだけ時間が経ったかはわからないが)の行為までもが自然と思いだされ、
顔を紅くしたり蒼くしたりしながら、押し黙っていた。

「…」
「…幸村?Are You All right?まだどこか悪いか?」

心配そうに幸村を見つめる政宗。
目の前の男のそのような素振りすら、幸村には腹立たしい以外の何の感情も湧き得なかった。

しばらく無言を貫き、顔を政宗達が座っている方とは逆の壁側に倒しポツリとつぶやく。

「…このような待遇…到底捕虜に対するものとは思えませぬな…」

明瞭な不満を込めた幸村の物言いに、政宗はムッと表情を歪める。

「…なんだよ気にいらねェのか?」
「…政宗殿のお考えが分からぬ…昨夜はあれ程恥辱的に某を嬲っておきながら…
 少し熱が出たからと言って女子を囲うような座敷に移されるとは…」

たちまち政宗の形相が険しいものへと変わる。

「…アンタ…昨日のアレ…俺がアンタを辱める為にやったと…そう思ってんのか…?」
「それ以外に何がござる!貴殿と某は、敵国の国主と武将、人と鬼、決して相容れることなき間柄。
 辱めと考えれば、昨夜のアレも納得がいくというもの」

捕虜の身分なれば何をされても文句など言えぬのはわかっておるが…と背を向けたまま小さく付け足す。

「真田…それは…」
「黙れ小十郎」

何かを言い掛けた従者の言葉をぴしゃりと遮り、政宗はHA!と嘲笑する。

「あーそーかい。分かってるじゃねぇか。そうだよ。俺はアンタを辱めたいんだ。
 嬲って犯して恥辱に耐えながらも、涙を流しながら必死で俺を映すその燃えるような紅の目が見たい」

それを聞くや否や、幸村の全身にゾワワッと悪寒が走った。
怒りからか、それともただひたすら嫌悪感からか、全身の毛が逆立つ。
たまらず、吐き捨てるように言い放った。

「………ッこのッ…!下衆めッ…!」
「Ah?なんとでもいいな。あぁこれだけは言っておく。今夜も来るぜ。アンタを抱きに」
「…ッ!!??」
「せいぜい身綺麗にして良い子で待ってるんだな。」

ははは、と笑いながら座敷牢の襖を開け、廊下へ出ていく政宗と、
眉間に皺を寄せ、頭を抱えながら、主の後について部屋を出た小十郎を、
幸村は肩を震わせながら見ていることしか出来なかった。

「なっ…」

― なんという…無礼な男ッ…武士の風上にも置けぬッ… ―

(…なぜあのような男に…俺は負けてしまったのだ…)


****
数刻後、おそらくすっかり日も落ちた頃合に、予告通りあの男は現れた。
無言で格子の鍵をあけ、中へ入ってくる。

(なんと無警戒、なんと不用心な。)

幸村は内心呆れながらその様を眺めていた。
そのまま幸村が座っている布団の脇にどかっと腰を落とし、やっと口を開く。

「待たせたな」
「待ってなどおらぬ」
「そういうな」
「…」

どうにも調子が狂う。
昼間あれだけ煽っておいて、幸村を見る目は妙に柔らかい。
不思議な色のその目を幸村がじっと見返していると、吸い込まれるように顔が近付いてくる。

「…幸村」
「…あ」

幸村はハッとし、慌てて自分の手で近づいてくる相手の口を覆う。

「もう止めよ。昨夜も申したが、これ以上の行為は無意味。徒に貴殿が体力を失うだけにござる」
「かまわねぇさ」

自分の口を覆っている細く白い手首を掴み、ゆっくりと口から外し、その掌にふわりと唇を押し当てる政宗。

「んっ」

その予想外の行為に、こそばゆさを感じつつ身を捩る幸村の腰を抱き、
政宗は続けて額や瞼、頬にふわふわと口付けを落としてゆく。

「…矛盾しておる…貴殿は国主で大事な体なのでござろう?以前そう申しておった」
「あーそうだなその通り」
「…答えになっておらぬ」
「国より何より、アンタが大事になったって言えば…それで満足か?」
「…?…貴殿の仰ることは何一つ意味がわからぬ」

だろうなぁと声を上げて笑う政宗。
幸村は訝しげに首を傾げてそんな政宗を見つめていた。


****

それからまもなく、蕩けるような快楽の中に幸村はいた。
それを齎している相手は間違いなく目の前のこの憎らしい男だった。

「…」
「抵抗しないんだな。昼間の勢いはどうした」

抱えた幸村の膝に口付けしながらニヤリと笑う政宗。

「某はっ…捕虜の身なれば…抵抗することは…無意味…んッ…」
「さっきから無意味無意味って…物分かり良すぎるのも問題だな。こっちにとっちゃ都合は良いが」
「…?」

その日から政宗は毎晩のように座敷牢を訪いては幸村の体を抱き続けた。

伊達政宗とは、煽られると、思ってもいないことを言ってしまう天邪鬼のような男だと幸村は思った。
何度も体を重ねるうちに、この行為自体が辱めではないのだと、幸村は理解した。
けっして愛の言葉を口にすることはないが、幸村に触れる指や舌は優しく愛しみに満ちている。
心地よさすら覚えるほどだ。それどころかこの行為は淫鬼の幸村にとっては強い快楽のみ齎す抗い難い行為で、
政宗もあの日以来、中に精を吐き出すこともなかったので、幸村が熱に浮かされ倒れるということもなかった。



■■ 閑話(眼帯と某)

「なぁ、アンタなんで眼帯なんてしてんだ?こっちの目、視力弱いのか?」

既に一戦交え終えたある日の朝方、政宗は、煙草盆の縁で煙管を軽く叩きながら、
隣で横になっている幸村の右目を眼帯の上からトンとつつく。

「あ、いえ…これは鬼の力が暴走せぬよう呪を込めた眼帯で抑止させておるのでござる」
「暴走?」
「はい。某、若輩であるがゆえ、力昂る日などは制御が出来ぬのです。
 特に満月の日など、よく屋敷で落雷騒ぎを起こし家人に叱られてばかりいて…」

言い掛けてハッとする幸村。しまった、鋭いこの男は何か勘付いてしまうかもしれない。

「…満月ねぇ…」
「ま…政宗…殿?」

心臓の高鳴りを感じながら幸村はおずおずと政宗を見上げる。

「満月に、アンタの雷はさぞ映えるんだろうな。見てぇな」

気付かれないようにほっと小さく安堵の息を吐く。

「…そういえば初めてお会いしたのも月夜でしたな。
 あの夜の政宗殿の炎はまこと美しく……と、某は何を……申し訳ござらぬ…」

言いかけて幸村はボッと顔を赤らめ打ち掛けの中にもぐりこむ。

(何を言おうとしていたのだ俺は…美しいと思ったのは真実であるが、そんなことを伝えたところでどうなると…)

おもむろに被っていた打ち掛けが剥ぎ取られる。
着物が肌蹴たままのあられもない姿を晒すこととなり、突然の羞恥から幸村は余計に顔に血が上るのを感じた。

「な、な、な、なにを…ッ…!?」

すっと右目の、眼帯の上に、政宗の大きな左の手のひらが乗せられる。
一方の右手は自分の右目を覆っている。

「こうしてみるとおそろいだな。アンタと俺、片方同士だ。」
「…まさむねど…」

幸村が困惑の色を浮かべ名前を呼ぶと、右目を覆っていた手がふわりと浮く。

「でもアンタは見えるんだろ?」

灯を背にした政宗の表情はよく見て取れなかったが、なんとも切ない声色に幸村の胸がちくりと痛む。

「隠しちまうのは、もったいねぇなぁ」

幸村はたまらず離れていく政宗の手を指で追った。
そのまま政宗の手を包み、何も言えずおどおどしていると、政宗はふっと笑みを零し幸村の左瞼に口付けた。
心臓がぎゅうとしまる。この感情はなんなのだろうか。



■■ 閑話(団子と某)

「土産だ」

珍しく昼に座敷牢を訪れたその男がホイと幸村の手のひらに乗せたものは、笹の葉で包まれた小包だった。

「なんでござろう」

幸村は、わくわくと好奇心を隠しもせず、縛ってあった凧紐をいそいそと解く。
すると中からは、何やら白くて丸いものが数個あらわれた。

「これは…?」
「団子だよ。アンタ甘いもん好きそうだ」

どうやら人間の食べ物らしい。

「…政宗殿は意地悪にござる…」

人の食べ物を食べられないと知っていて、と幸村はぷくっと頬を膨らます。
そんな幸村の様子を見て、ケラケラと笑う政宗。
政宗はたまにそのように笑うことがあるが、年相応の少年の一面が垣間見え、幸村はその表情が好きだった。

幸村が政宗の捕虜となって、二十日程経っていた。
この頃には、すっかり政宗に対する警戒心も薄れ、
幸村の知らない面白い話を聞かせてくれたり、珍しい異国の道具を見せてくれたり、
極上の精気を充分に与えてくれる政宗は、幸村にとってむしろ好意の対象となっていた。

政宗は、白い玉を一つつまむと、ぽいと自分の口に放った。
もぐもぐと咀嚼し飲み込み、やっぱあめぇなと苦い顔を浮かべると、
湯のみに入った茶を口内を洗うように飲み干した。
そして、一連の様子をぽかんと眺めていた幸村にずいと迫ると、おもむろに両手で幸村の顔を掴み、
深く抉るように舌を差し込む。上顎、歯裏、下顎、口内至る所を丁寧に舐め上げる。

「…むぐっ…うっ!?」

突然呼吸を奪われ、驚いた幸村がばしばしと政宗の背中を叩くと、ようやく解放してやる気になったようで、
ゆっくり離れた。

「ぷはっ…ぜぇぜぇ………ととととと突然何をッ…………む?」
「どうだ?」
「なにやら…甘い…ような……」
「だろ?好きだろ?」

ニヤリと悪戯っぽく笑う政宗に、またもや幸村の心臓がとくんと脈打つ。

政宗の着物の袖をきゅっと握り、頬を染め上目遣いにおねだりをする。
二十日の付き合いで、政宗がこのような仕種に弱いことを幸村は学習していた。

「あの…よ、よろしければ………お、おかわりを……」
「…………ッ!」

政宗がぱっと手で顔を覆ってしまった。
一瞬、失敗したか、と思ったがそうではないようだ。

「…アンタ…こんなTimingでそんなテク使ってんじゃねぇよ…」

すらりと長い指から覗く目は確かに怒ってはいないようだし、それどころか熱を孕んでいるように見える。
安堵した幸村は、甘えるように政宗の胸元に頭をすり寄せて更に追い討ちをかける。

「はようくだされ!」
「Ah~…この団子俺には甘過ぎるんだが…しょうがねぇなぁ…」

口ではしょうがないと言いつつ、急須で湯飲みに茶を注ぐ政宗を見て、幸村は満足気に微笑む。

結局、己の欲望に従い政宗に全ての団子を食べさせた幸村は、
当然のようにキスだけで足りなくなった政宗の情欲を、深夜明け方に及ぶまで受け続けることとなったのだった。


■閑話休題(十四日月の夜)

(…いよいよ…この捕虜生活も明日で最後…か…)

座敷牢の寝床に座り、隣で寝息を立てる男の烏の濡羽色の黒髪を指で優しく梳く。
続けて自分の右目に眼帯の上からそっと触れる。

(やはり…いつもより漲っておる…このままでは呪がもつかどうか…)

ここまで考えて、ハッとする。

(いや…何を考えておるのだ俺は…明日はどうにかここから出なければならぬのだ。力を抑える必要がどこにある)

眼帯に触れていた手を下ろし、ぐっとこぶしを握り自分に言い聞かせた。

(…それにしても…皮肉なものだな…)

ふと、寝ながらにして、腕を幸村の枕の上と太腿の上に回している美しい男を見遣る。

(俺を求めて止まぬ行為が、逆に俺を手放す一因となるとは)

今の幸村の万全以上の体調は、日々この竜から受ける寵愛によるものであることは明白だった。
心臓がつきりと痛む。
明日には、お別れなのだと。

「……ゆき…むら…?」

僅かに眉をしかめ、形良い唇が微かに動く。その唇から奏でられる自分の名前が耳心地良い。
太腿に乗せられた腕が何かを探すように動いたので、
幸村は政宗を起こさないようゆっくりとその暖かい腕の中に潜り込み、体を摺り寄せる。

「…某はここにおりますぞ」

今は…そう小さく呟くと、それが聞こえていたのかいなかったのかは定かでないが、
頭上からはまた規則正しい寝息が聞こえてきた。
幸村の瞳からは一筋の名も知らぬ滴が流れていた。

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