生まれて初めて書いた小説!梵弁です!未完!

明日の約束2

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まず到着したのは真田の御屋敷だ。

どっしりとした木造の背高い門構えは、漫画(佐助自身はあまり読まないが)や映画に出てくるような、
どこぞの道場を彷彿とさせる。
門のすぐ横に用意された呼出鈴を鳴らすと、少し経ったあと、ギィという重厚な音とともに門が開き、
年配の家政婦長が出てくる。
毎回思うことだが、一体どういう仕組みでこの重そうな門を開けているのだろう。
このおばあさんはすごい怪力なのだろうか。

彼女は、全身汚れた幸村様と、伊達政宗が手を繋いで並んでいる姿を見た途端眉をひそめたので、
佐助は一瞬のうちに頭の中で、どう説明しようか、と何パターンかシミュレーションを走らせたが、
家政婦長はその事については一切触れず、いつも通りの対応を見せた。
「謝礼については週末まとめてお渡しいたしますので、後日受け取りにお越し下さい」

出来たての恋人(というとパンか何かのようだが)との名残惜しい別れにハグで対応するあたり、
さすが洋風かぶれの伊達家の血筋、と、佐助はある意味感心した。皮肉でなく。
幸村様はというと、おそらく何かの勝負と勘違いされているのだろう。負けませぬぞと叫びながら、
ぎゅうと伊達少年の体をしめつけ返している。
傍から見ると、子ども同士がじゃれ合っている大変微笑ましい光景ではあるのだが、
事情を知る佐助からすれば何やら複雑な心境だ。
家政婦長は、この行為についても黙認するつもりのようで、佐助と同じく、じぃと二人を見つめている。
主人と熱い抱擁を交わしているこの相手が誰であるか、知らないわけではないだろうに。

「ではまた明日!政宗殿」
また明日、とは、幸村様にとってはお決まりの挨拶でもあった。
毎日佐助と別れる時も、また明日、と言って別れるのが通例となっている。
翌日が登舎日でない金曜の別れ際にすらその言葉を使われるので、
おそらく彼にとって言葉に然程深い意味はないのだろう。

しかし政宗にとっては違った。
それは、その場にいる誰もが知らない彼なりの事情があったからだ。
彼にとって、別れの挨拶はただ一つで、政宗はその言葉が大嫌いだった。
また明日、その続きは何なのだろうか?また明日どうなるというのだろうか?
そんな幼い疑問は浮かぶと同時にすぐに消え、元々頭の良い子どもであるため、瞬時に理解する。
今日初めて言葉を交わした想い人は、また明日も自分に会うと、会いたいと、そう言ってくれているのだと思うと、
胸の鼓動が早鐘を打ち、体が熱く昂ってくるのがわかる。
理解は出来るが、政宗にはその返し方がわからない。
言葉は出さず、代わりに躊躇いがちにそっと幸村の頬に口付けた。
佐助の顔が歪む。ぶつぶつと何やら呟いている。うん…セーフ…まだセーフ…
実はハグもキスも政宗にとっては初めてのことで、慣れたものだと佐助を感心させるほどの自然さは、
ある意味彼の天性の才能とも言えるだろう。

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さて、ここからが問題だ。

手を繋ごうとしたら拒まれたので、自分とその少年は、ただ並んで道路を歩いている形となっている。
保護者としての無意識下の責任感からか、佐助はきっちり車道側を歩く。
佐助の住まいであるボロアパートを通り過ぎ、数十メートル先(両家とも敷地が広いので門までは遠い)、
豪勢な西洋式門の前で立ち止まった。
うーん。さてどうしたものか。
まさか、いつの間にか誘拐犯と間違われてて、いきなり確保ー!とかいって警察が飛び出てきたりしないよね?
佐助は俄かに不安を覚えつつも、とりあえずよそいきの笑顔を作り、
門のすぐ上に設置してある防犯カメラに手を振ってみせる。
すると、誰が出てくるわけでもなく、金属格子の門が左右に割れた。
おお、自動で開くのか、としばらくそれを眺めていると、足元の声がいう。
「ここから先は家の者と使用人以外は入れない。お前は帰れ。」
「え?お迎えの方出て来られないの?御屋敷まで随分ありそうだけど…」
目の前に、手入れの行き届いた庭は広がれど、おそらく屋敷へ続くであろう小径の先は、
生い茂る木々で門からは奥が見えなかった。
「いつものことだ。問題ない。」
まぁ屋敷の敷地内ではあるのだから、警護の面で心配するようなことはないのだろう、と佐助は自分を納得させ、
小さくなる背中をしばらく見送ったあと、ボロアパートへと帰った。



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堕ちた日

ここでもう一つ、出会いの話をしよう。
それはほんの1年程前の話ではあるが、今小学2年生である政宗にとっては今までの人生における七分の一、
幸村に至っては五分の一の時間を指す。

その日は、有力者である某官僚宅にてホームパーティーが開かれていた。
生まれて初めてパーティーへの参加を許された政宗は、家族とは離れた場所でジュースを飲んだり、
政宗の専属使用人である片倉小十郎が皿に盛ってきてくれた料理に手を付けたり、手持無沙汰に過ごしていた。

弟は、自分より1つ下であるにも関わらず、当然の如くパーティーに列席し、
両親の間で多くの大人達に囲まれている。
政宗の母は、日頃から政宗のことを、かたわだの、醜いだのと謗り、近付こうともしない。
母は完全である弟に愛を注ぐ。不完全である自分はその資格すらもないのだと、
ある意味達観していた部分もあった。
ただ、あの大人達や弟が度々行う、ハグという行為そのものには興味があった。
他人と抱き合うことに触れあうことにどういう意味があるのだろう、政宗は知りたかった。
小十郎に言えば、きっと嫌な顔一つせず望みを叶えてくれそうではあったが、
こんな醜い自分に触れられることを、内心では嫌がるのではないだろうか、気味悪がられるのではないだろうか、
という不安があり、結局のところ誰にも打ち明けられないでいた。

腹も満たし、いよいよすることが無くなってしまった政宗は、残りの時間の潰し方として、
屋敷の中を探検するという手段を選んだ。
目的と手段が逆だなぁと自嘲気味に笑う。

小十郎の目をすり抜け、2階に上がる階段をするすると駆け上り、華やかな1階とは違う、
落ち着いた雰囲気の廊下を一人歩く。
特に面白みもないな、と若干残念がってはみるが、せっかくなのでと奥まで進むことにした。
柔らかな質感の赤い床敷の長い廊下、壁には何が描かれているのかわからないような絵画が並んでいる。
部屋はドアの数から十数程度あると見てとれるが、そのほとんどが閉ざされており、特に興味を引くものはない。
ふと、そんな中、違和感に気付く。
最奥の、廊下左側の部屋のドアが、少し、ほんの少しだけ開いていた。
政宗は、ごく自然にその部屋まで進み、そっとドアを押し中の様子を伺う。誰もいないようだ。
ちょうどいい。部屋が使えるのなら少しの間休もう。ただしあまり呆けてもいられない。
少しでもパーティー終了の時間を過ぎてしまえば、あの家族は容赦なく自分を置いて帰ってしまうだろう。
政宗は靴を脱ぎ、ふかふかのベッドにのぼって布団にもぐりこむ。

…ん?…温かい…

猫でも潜り込んでいたのだろうか、布団を軽くめくる。
そこには1人の子どもがいた。目をかたく瞑り、すーすーと小さな寝息を立て、猫のように丸まって寝こけていた。
政宗はぎょっとした。誰かと同じ布団に入るなど、一体何時ぶりだろう。
襟足から一房伸びる長めの髪を紅い紐で結び、すらりと無駄に長い睫毛で、性別は一見わからないが、
自分と同じようなタキシードを着ているので、おそらく男だと思う。

最初はその存在に驚きを隠せなかった政宗だが、相手がしっかと寝ていることを確認すると、
しばらく観察するように見入っていた。
ふくふくとした柔らかげな頬がほんのり紅潮していて、呼吸をするたびに膨らんだり萎んだりしている。
触ってみたい。純粋にそう思った。
が、すぐさま母の政宗に対する態度が脳裏に浮かび、それはするべきではないと自分に言い聞かせる。

しかし、政宗は一度は手を引っ込めたものの、結局は好奇心に負け、まあるい頬を人差し指でつついてみた。
(やわらけー)
餅のような感触の頬は、思った通り心地よく政宗の指を跳ね返す。もちもち、ぷにぷに。
「む…」
「!」
しまった、やり過ぎた、と慌てて手を引っ込めるが、もう遅いようだ。
大きな輪郭の小豆色の瞳が、うっすらと徐々に開かれてゆくのを、政宗は息をのんで見つめていた。

その子どもは、しばらく目をこすったりあくびをしたりしていたが、正面の少年の存在に気付くと、
ぼんやりとした目で彼を見つめながら、よろよろと両手を伸ばしてくる。
政宗は、自分に、特に顔に触れられることを極端に嫌った。
常日頃から自分の醜い部分には、髪を垂らして隠すようにしている。
いつもの如く、ぞわりと全身の毛が逆立ち、反射的に避けようと、体が動くはずだった…が、脳がそれを拒んだ。
触れられてみたいという欲が、触れられたくないという欲に勝ってしまったのだ。

子ども特有の柔らかな手のひらが、政宗の頬をやんわり挟む。

あらためて、なんて愛らしい子どもなのだろう、と。目が離せなかった。
自分もこれ程愛くるしければ、皆から愛されていたかもしれない。弟のように。
そして政宗は、本の数センチ目の前の、形良い唇が動くのを見た。

「きれいな、めだ」

その言葉を耳にした途端、政宗の心から、今まで頑なに培ってきた鱗のように固い殻が、
ガラガラと音を立てて剥がれ落ちていくような錯覚を覚えた。

次の瞬間には、政宗は少年の手を振り払い、ベッドから飛び降りて靴を履き、
階下の退屈な宴の席へと滑りこむように身を隠した。
いつものように気配を消して無いもののように振る舞おうとするが、心臓の動悸はおさまらない。
ああ、こんなに大きな音では、すぐに見つかってしまう。
案の定、そう間をおかず、自分を探していたらしい片倉小十郎に声を掛けられる。
軽く説教を受け、それを話半分に聞き流し、頭の中では先ほどの出来事ばかりに想いを馳せていた。

****

その後政宗は、懇意にしていたSPの一人に、あの児童について調べさせた。
その子どもは真田幸村というらしい。

家が近所なので、あのパーティーの日以来、度々見かけることがあった。
そんな時は、政宗はその姿が隠れるまで、じぃと見つめてみるのだが、
幸村はそんな政宗の視線に気付くことはなく、常に自分以外の誰かに向けて、幸せそうに笑っているのだ。
そのような場面を目にする度に、政宗の心は煮え滾る。この感情を嫉妬というのだと頭の中で誰かが囁く。
特に、幸村の表情が和らぐあの猿飛佐助とかいう男は、政宗にとって敵以外の何者でもなかった。

政宗は、その日から今日まで、人生の七分の一の時間を掛けて幸村のことを想い続けた。
自分の人生において、彼のことを考える時間こそが、最も幸せなときだった。
そして、これからもそうであることを願うようになった。もっと近くにゆきたい。

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あの日、小学校から帰った政宗はあることに気付いた。
いつも鬱陶しいくらいに感じる、SPの気配が一つもないことに。
門の前に立ち、今日しかない、そう思った。
幸村はこの時間、あの公園で一人遊びをしているはずだ。
真田のSPはいるだろうが、そんなことはどうでもよかった。
目標に辿りつく前に掴まろうと引き離されようとどうだっていい。
とにかく幸村に、自分という存在を知って欲しかった。
政宗は開き始めた門をくぐらず、あの公園へと駆けだした。

幸村の姿が見えた。逸る心臓を押さえつけ、足早に砂場に向かう。
ほんの数メートル先に、あれほど焦がれた幸村がいるのだ。

何か踏んだ気がするが、それどころではない。

もう今しかない。伝えるのだ。自分を見て欲しい、名前を呼んで欲しい、笑い掛けて欲しい。
伝えたいことはたくさんある。でも、言葉にするのはずっとeasyだった。

「アンタが好きだ」

そして俺はその日、想い人からの愛の返事と、愛の拳を、顔面で受け止めることとなったのだ。
可愛いだけじゃなく、とんだじゃじゃ馬だったなんて、余計最高じゃねーか。
それでこそ滾るってもんだぜ、真田幸村。

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